概要
加齢黄斑変性とは、加齢によって黄斑(眼の網膜中心部にある光を感じる感度の一番高い部位)に傷害(変性)が生じ、視界のゆがみや視力障害が起こる病気です。欧米では成人の失明原因の第1位で、日本でも第4位となっています。国内の患者数は約70万人と推定されていますが、人口の高齢化に伴ったさらなる増加が懸念されています。)
日本人では滲出型と呼ばれるタイプが多く、50歳以上の滲出型加齢黄斑変性の有病率は約1.2%にも上ります。その発症には、加齢だけでなく、食生活、喫煙習慣、光刺激、遺伝的要因などさまざまな因子が関わっています。
原因
加齢黄斑変性は、萎縮型と滲出型に大別され、黄斑が傷害される原因がそれぞれ異なります。
萎縮型の原因
網膜のすぐ下にある網膜色素上皮組織が、加齢に伴う老廃物(ドルーゼン)の蓄積により萎縮し、網膜が傷害されて発症します。
滲出型の原因
網膜色素上皮細胞の下にある、血管が豊富な脈絡膜から異常な脈絡膜新生血管が生じます。この新生血管が網膜色素上皮の下、もしくは網膜と網膜色素上皮の間に侵入して網膜を傷害することで発症します。新生血管は正常な血管とは異なり、血管から血液成分が漏れ出たり、血管が破れたりすることがあります。このために、網膜が腫れたり、網膜の下に液体が溜まったりすることで、網膜が正常に機能しなくなってしまうのです。
日本人では滲出型加齢黄斑変性が大部分を占めていますが、発症に関わる新生血管の異常増殖を引き起こすものとして喫煙が報告されています。タバコに含まれるニコチンには、新生血管増殖と血管漏出を促進するVEGF(血管内皮増殖因子)といった種々のサイトカインの分泌を促す作用があることがわかっています。
日本においては、過去の喫煙者における男女比が8:1と圧倒的に男性が多かったことを反映し、現在の患者数は男性が多くなっていると考えられています。この他、新生血管が発生する原因として、加齢はもちろんのこと、脂質の多い食生活、日光への曝露も挙げられます。
上記に述べた加齢や喫煙、高脂肪食、日光曝露などの生活環境因子のほかに、遺伝的要因が発症に関わっていることが報告されています。特に、CFH、ARMS2、HTRA1の3つの遺伝子は加齢黄斑変性発症のリスク因子であることがわかっています。
症状
萎縮型の場合、視力が比較的ゆっくりと低下していきます。滲出型の場合、網膜が腫れる「網膜浮腫」や、網膜の下に液体が溜まる「漿液性網膜剥離」が起こり、網膜自体がゆがむことで対象物がゆがんで見える変視症となることがあります。多くの場合、最初に現れる症状はこの視界のゆがみです。
さらに進行すると、視界の中心が見えなくなる「中心暗点」や、色を識別しにくくなる症状が現れるようになります。また、脈絡膜新生血管から大出血が起こると、急激に視力が低下して失明にいたることがあります。日本人では、加齢黄斑変性が片眼だけに起きる片眼性が多いことが知られています。そのため、初期症状である視界のゆがみに気づきにくく、発見の遅れにつながることもあります。
検査・診断
診断には、視力検査と眼底検査を行います。視力検査では、黄斑変性による視力の低下が認められるかどうかを確認します。眼底検査では、眼球の底(目の奥)にある網膜の状態を観察し、新生血管や出血の有無などを確認します。
視力検査と眼底検査の補足として行う検査として、OCT(光干渉断層計)検査が挙げられます。この検査では近赤外線によって網膜の断面図を観察することが可能で、網膜や新生血管の状態を立体的に把握することができます。短時間で実施可能で侵襲性も少ないため、患者さんの負担が少ない検査です。
治療
治療には、抗VEGF薬を水晶体の奥にある硝子体腔に定期的に注射する治療方法が一般的です。VEGFは脈絡膜血管新生と、血管からの液体漏出を引き起こす分子の一つとして知られています 。
抗VEGF薬は、VEGFの働きを阻害して血管新生が起こるプロセスを抑える薬剤です。この他、光線力学療法(レーザー治療)を用いることもあります。また、iPS細胞(人工多能性肝細胞)を用いた再生医療が研究されており、将来の臨床応用が期待されています。